年表

55) ごちそう [自伝本『私のこと』]

生まれ育った 新潟県長岡市は、海と山に囲まれた
食文化的にも 恵まれた環境にある。
 
しかも、夏は暑く、冬は寒い。
もともと “雪” の恵みで、春先の大地に豊かな “水” をもたらしたことで
米 や 酒 では 有名な所ではあるが、これらだけではない。
 
子供の頃は、洋食の方に興味があったのだが
今となっては、本当に おいしい食材だらけだったのだと 誇りにさえ 感じている。
そして、そういう食材のほとんどが ちゃんと季節に合わせて食卓に並ぶ。
 
春には、うど・こごみ・ふきのとう などを
天ぷらやゴマ和え、酢みそなどでいただく。
 
夏には、大好きな野菜たちが おいしく育つ。
中でも、地元でしか味わえない “長岡ナス” と呼ばれている 大きな丸いナスがある。
形は、まるで 大きなトマト風で、皮が ものすごく硬い。
その皮を厚くむいて、半分に切り、水に浸し、アクを抜いた後、蒸す。
長岡の方言では、これを ふかす と言うので
この料理名は “なすぶかし” と呼ばれている。
ふかしたナスを冷蔵庫で冷やし、厚めのお刺身のように切り
からし醤油でいただく。
ひんやりとして ナス本来の甘さを楽しむ、夏料理の代表選手だ。
しかも、その色は きれいな翡翠(ヒスイ)色になるのだ。
子供の頃には、この美しさや情緒ある食べ物の価値は 理解していない。
私が 東京の生活を体験したからこその 価値あるものだろう。
 
以前 聞いた話だが、ある農家の方が この長岡ナスの苗を持ち帰り 
他の場所での栽培を試みたが、土地や水が違ったせいか 育たなかったらしい・・・。
まさに 長岡が生んだ名物なのだ。
 
夏のお刺身(?)には、これ以外にも “えご” という食べ物がある。
海藻を寒天状にしたもので、やはり 冷やして からし醤油や酢みそでいただく。
夏に冷たいごちそうとは、昔の人の知恵は偉い。
 
冬に向かうと、日本海の 甘えび・ズワイガニ など
海からの恵みも素晴らしい。
 
今では、帰省すると 季節に合った これらを、腹いっぱい食べる。
体も心も これで満たされる。
 
何が “ごちそう” かは、人それぞれであろうが
やはり 生まれ故郷の自然の恵みがもたらす食材と
それに見合ったシンプルな手料理には
何も勝てないだろうと
強く思っているのである。
 
 
 

2009年06月02日(火)

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